はじめに
この本から、常に利益を出し続けている企業にはどういう裏(背景)があるのか?という
観点から複数回に分けて、企業ごとにその裏について紹介していきます。
結論
「戦略の神髄は思わず人に話したくなるような面白いストーリーにある」
つまり、戦略を構成する要素が噛み合って、全体の動きと流れが生き生きと浮かび上がってくる。
これが「ストーリーとしての競争戦略」です。
戦略とは
「違いをつくって、つなげる」こと
違いというのは競合他社に対する違い(差別化ポイント)のことですが、
個別の違いをバラバラに打ち出すだけでは戦略になりません。
それらがつながり、組み合わさり、相互に作用する中で長期利益が実現されま
違いの作り方
「違い」には、
種類の違い(Strategic Positioning):ポジショニング(以下、SP)と
程度の違い(Organizational Capability):組織能力(以下、OC)の
2つのタイプがあります。
SPは「他社と違ったことをすること」であり、
OCは「他社が簡単にまねできないやり方(ルーティン)をすること」と言えます。
イチロー選手を例に挙げると、
野球というスポーツを選んだことや外野手というポジションを選んだことがSPに該当し、
独自の練習ルーティンや打撃技術などがOCに該当します。
SPの戦略の本質は「いかに競争圧力を回避するか」という思想であるのに対し、
OCは競争圧力を受け入れ、それに対抗しようとする戦略です。
どちらが「正しい」とか「強力な」論理だということではなく、
優れた経営にはどちらも必要です。
この「違い」の違いを理解しつつ、いくつもの「違い」をつなげて、
「ストーリー」にしていきましょう。
ストーリーとは
戦略をストーリーとして語るということは、
「個別の要素がなぜ齟齬なく連動し、全体としてなぜ事業を駆動するのか」を語るということ
つまり個々の打ち手である「静止画」を、因果論理で縦横につなげて「動画」にするということです。
なぜストーリーが必要なのか
ストーリーの面白さは、戦略の実行にかかわる社内の人々を突き動かす最上のエンジンになります。
実行を担う人々が、自分の仕事がストーリーの中でどこを担当しており、
他の人々の仕事とどう嚙み合って、成果にどうつながるのか、
というストーリー全体についての実感があれば、戦略の実行にコミットすることができます。
戦略ストーリーをつくる立場にいるリーダーだけではなく、
実行を担うメンバーも、仕事に向かって突き動かされるような面白いストーリーを強く求めているはずです。
自分で心底面白いと思える、思わず周囲の人々に話したくなる。
戦略とは本来そういうものであるべきですが、
設定された目標に対して、難しい顔で嫌々戦略を考えている人が多過ぎる状態です。
ストーリーの組み立て方
ストーリーを組み立てるときに柱になるのは以下の5つ、所謂「戦略ストーリーの5C」です。
1. 競争優位(Competitive Advantage)
ストーリーの「結」
ストーリーの結論となる部分で、要するに「どうやって儲けるの?(長期利益を実現するの?)」ということ
2. コンセプト(Concept)
ストーリーの「起」
顧客に対する提供価値の本質を一言で表現した言葉」で、「本当のところ、誰に何を売っているのか」ということ
3. 構成要素(Components)
ストーリーの「承」
「構成要素」は前述の「違い(SP・OC)」のことで、「一貫性」はそれらの構成要素を「いかにしてうまくつなげるか」、言うなればストーリーの「筋の良さ」
4. クリティカル・コア(Critical Core)
ストーリーの「転」
ストーリーの優劣を決めるカギになります。
5. 一貫性(Consistency)
ストーリーの評価基準
構成要素をつなぐ因果論理
スタバを読み解く
この5つからスターバックスを分析していきます。
コンセプト
これは有名です。
「スターバックスはコーヒーショップですね?」に対して、
ハワード・シュルツさんは「いいえ、本当のところわれわれが売っているのはコーヒーではありません」と答えます。
シュルツさんが構想したコンセプトは 「第三の場所」(third place) というものでした。
つまり、コーヒーを売るのではなく、「ゆったりとした雰囲気の中でリラックスする」という
経験なり文化なりを売るというのがスターバックスのコンセプトで、コーヒーそのものはそのための手段であるという考え方です。
こうしたコンセプトは、顧客の声を聞いた結果として出てきたものではありません。
顧客に聞いてみたところで、「こういう新しいメニューを取り入れてほしい」とか
「閉店時間をもう少し遅くしてほしい」といった「ニーズ」が出てきます。
優れたコンセプトを構想するためには
常に「誰に」と「何を」の組み合わせを考えることが大切です。
それらを表裏一体で考えることによって「なぜ」が初めて姿を現すからです。
また、コンセプトを決めるということは 「誰に嫌われるか」 をはっきりさせることでもあります。
ターゲットではない顧客をはっきりさせてください。
誰に嫌われるかを意図することが、優れたコンセプトを描くための最も効果的な入口になります。
筋の良いストーリーをつくるためには、コンセプトと因果論理でつながらない構成要素は意識的に切り捨てるという姿勢が重要です。
誰に嫌われているか?
そういう文脈で言うと、スターバックスは最初から禁煙です。
コーヒーの香りの中でゆっくりとリラックスするよいう「第三の場所」というコンセプトからすれば、
喫煙者はストーリーを破壊するする邪魔者にほかならないからです。
また忙しい人たちからも嫌われようとしています。
席についたお客さんには、コーヒーを飲みながら、読書、友人とのおしゃべりなどで、
できれば30分くらいはゆっくりと過ごしてもらいたいのです。
だから、スターバックスは注文を受けた後、ゆっくりかけてコーヒーを淹れます。
入り口の近くで注文をすると、エスプレッソマシンでコーヒーを淹れる人、
最後にミルクを入れる人と、数人をわたり、お店のもう少し奥まったところでコーヒーが出されます。
この「待たせる」ことが「第三の場所」の維持のために重要です。
「あそこは少し待つ」という認識があれば、急いでいる人は来ません。
結果としてスターバックスにくるのは、時間にゆとりがあるお客さんばかりになるのです。
クリティカルコア
クリティカル・コアの定義は「戦略ストーリーの一貫性の基礎となり、
持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素」で、これを満たすために必要な条件は以下の2つです。
クリティカル・コアの条件
- 他の様々な構成要素と同時に多くのつながりをもっている
- 一見して非合理に見える
もう少し嚙み砕いて言うと、
1は「一石で何鳥にもなる打ち手である」ということ、
2はストーリーから切り離してそれだけを見ると「非合理でやるべきではないこと」のように見えるが、
「ストーリーの中に位置づければ、強力な合理性の源泉になる」ということです。
キラーパス
結論からお伝えすると、スターバックスの戦略においては
「直営方式による店舗運営」こそがクリティカル・コアであると言えます。
「直営方式」がキラーパスとなることで、
「店舗の雰囲気」「出店と立地」「スタッフ」「メニュー」といった構成要素が
「第三の場所」というコンセプトの実現につながっています。
「直営方式」は「フランチャイズ方式」と比べて初期コストもかかるし、
リスクも大きいので、「一見非して非合理」に見えますが、
逆にフランチャイズにしてしまうと、オーナーはどうしても利益を求めてしまい、結果として回転率を重視してしまうのです。
つまり「第三の場所」にはなりません。
このように、ストーリー全体の中に置いてみると、その合理性が見えてきます。
「一見して非合理だが、ストーリー全体の文脈に位置づけると強力な合理性を持っている」
という二面性にこそ、クリティカル・コアの本質があるのです。
なぜなら、「違い」をつくっても、それが他社にすぐ模倣されてしまうものであれば、
「持続的な競争優位の実現」には至らないからです。
「まねできない」のではなく、「まねしようと思わない」ような「違い」をつくることが重要です。
終わりに
新卒でいきなり事業の戦略を考えることは職種によってはあまりないと思いますが、
社内での自分の違いの作り方や、いろんな部分で使っていきたいですね。
次回は激戦区の空港業界で他社との違いを明確にして
利益を40年間上げ続ける企業についての解説をしていきます!