株主の観点からどういう企業が評価されるのか?を紐解いた

2024/05/25

企業分析
フリーキャッシュフローモデル
EVA
MVA

この本は会計・財務に関して「企業分析」という観点で網羅的に説明されている。

その中でも、株主をはじめとする資金提供者の立場から、
「どれだけのキャッシュを事業に投入してどれだけのキャッシュをリターンとして獲得することができるか?」を
どのような物差しで測っているか?を知ることができた。

この「物差し」と呼んだ企業評価のうち、
手法3つ(フリーキャッシュフローモデル・EVA・MVA)の意味と使い方をそれぞれまとめる。

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フリーキャッシュフローモデル

フリーキャッシュフローとは

企業が営業活動から得た現金収入から運営費用や資本支出を差し引いた後に残る現金のこと。
これは企業が自由に使える現金であり、債務の返済、配当の支払い、新しい投資、または企業の買収などに使用される。
以下のような式で計算される。

フリーキャッシュフロー = 営業キャッシュフロー − 資本的支出

フリーキャッシュフローモデルとは

企業の価値を評価するための方法。
簡単に言うと、将来その企業がどれだけの現金を生み出すかを予測し、その現金の価値を現在の価値に換算する方法。
このモデルを使うことで、企業がどれくらい価値があるかを見積もることができる。

このモデルの考え方

  1. フリーキャッシュフローを予測する:
    まず、企業が将来生み出すフリーキャッシュフロー(営業活動から得た現金収入から運営費用や資本支出を差し引いた後の現金)を予測する。
    たとえば、次の5年間のフリーキャッシュフローを予測する。

  2. 将来のフリーキャッシュフローを現在価値に割引く:
    次に、その予測したフリーキャッシュフローを「割引率」というものを使って現在の価値に換算する。
    割引率は、将来のお金の価値が現在のお金の価値と同じでない理由を考慮する。
    たとえば、将来のお金は投資リスクやインフレなどの要因で現在のお金よりも価値が低くなる。

  3. 企業の総価値を求める:
    最後に、現在価値に換算したフリーキャッシュフローをすべて合計する。これが企業の総価値(企業価値)となる。

具体的な例

  1. フリーキャッシュフローの予測:
    ある企業が今後5年間に次のようなフリーキャッシュフローを生み出すと予測したとする
    1年目: $100
    2年目: $120
    3年目: $140
    4年目: $160
    5年目: $180

  2. 割引率の決定: 割引率を10%と仮定する。

  3. 現在価値への換算: 各年のフリーキャッシュフローを以下のように現在価値に換算する。
    1年目の現在価値: $100 / (1 + 0.10)^1 = $90.91
    2年目の現在価値: $120 / (1 + 0.10)^2 = $99.17
    3年目の現在価値: $140 / (1 + 0.10)^3 = $105.67
    4年目の現在価値: $160 / (1 + 0.10)^4 = $109.44
    5年目の現在価値: $180 / (1 + 0.10)^5 = $111.38

  4. 企業価値の計算: これらの現在価値をすべて合計する
    企業価値 = $90.91 + $99.17 + $105.67 + $109.44 + $111.38 = $516.57

このようにして、フリーキャッシュフローモデルを使って企業の価値を計算できる。
この方法は、企業が将来どれだけの現金を生み出せるかを基に、
その企業の現在の価値を見積もるために有効な手法だが、企業の将来の行政予測がベースになるため、
予測自体が難しく、大きく外れることもある。
また、半永久的に企業が存続するという前提にしたがった計算をしているので、単年での業績評価には不向きな手法。

EVA

EVAとは

企業がどれだけの経済的価値を創出したかを測定する指標。
これは、企業が投資家の期待以上に利益を上げているかどうかを示すために使われる。
EVAを使うと、企業が資本コストを超える利益をどれだけ生み出しているかを評価できる。

EVAの考え方

EVA = NOPAT − 資本コスト
NOPAT(Net Operating Profit After Taxes):税引後営業利益(本業から税引き後でどの程度利益を稼ぐことができたのか?を示している)
資本コスト:企業が資金を調達するために支払わなければならないコスト。具体的には、株主や債権者に対するリターンのこと。

EVAの計算ステップ

  1. NOPATを計算する
  2. 資本コストを計算する( 企業が使用している資本(負債と株主資本)の総額に、その資本に対する要求リターン(資本コスト率)を掛けたもの)
  3. EVAを求める: NOPATから資本コストを差し引きます。この結果が正であれば、企業は投資家の期待を上回る価値を創出していることを意味する。

具体的な例

NOPATの計算:
ある企業の営業利益が$200で、税率が30%の場合、税引後営業利益は次のように計算する。

NOPAT = 営業利益 × (1−税率)
NOPAT = 200 × (1−0.30) = 200 × 0.70 = 140

資本コストの計算: 企業が使用している資本が$1000で、資本コスト率が10%の場合、資本コストは次のように計算する。

資本コスト = 使用資本 × 資本コスト率
資本コスト = 1000 × 0.10 = 100

EVAの計算: NOPATから資本コストを差し引きます

EVA = NOPAT − 資本コスト
EVA = 140 − 100 = 40

この例では、EVAが40となり、企業は資本コストを超える価値を創出していることがわかる。

EVAは、原則として、単年度について計算するもので、毎年の経済的付加価値を意味している。
単年度でのEVAがプラスになることで、
結果としてフリーキャッシュフローモデルによる株主価値の上昇にもつながるので、
株主価値の上昇を意識する面で良い評価指標だと言える。

MVA

MVAとは

企業がその資本を使ってどれだけの価値を市場で創出したかを測定する指標。
これは、企業の市場価値と資本の総額の差を示す。
MVAが高ければ、企業は投資家の期待を上回る価値を創出していることを意味する。

MVAの考え方

MVA = 市場価値 − 投入資本
市場価値:企業の株式の市場価格に発行済株式数を掛けたもの(時価総額)。
投入資本:企業が設立以来調達した全ての資本の総額(株主資本と負債の合計)。

MVAの計算ステップ

  1. 市場価値を計算する: 企業の現在の株価に発行済株式数を掛けて計算する。
  2. 投入資本を計算する: 企業がこれまでに調達した全ての資本の合計を算出します。これは株主資本と負債の合計。
  3. MVAを求める: 市場価値から投入資本を差し引く。この結果が正であれば、企業はその資本を使って市場で価値を創出していることを意味する。

具体的な例

市場価値の計算: ある企業の現在の株価が$50で、発行済株式数が1,000万株の場合、企業の市場価値は次のように計算する。

市場価値 = 株価 × 発行済株式数
市場価値 = 50 × 10,000,000 = 500,000,000

投入資本の計算: 企業がこれまでに調達した全ての資本(株主資本と負債の合計)が$300,000,000の場合、投入資本は$300,000,000となる。

MVAの計算: 市場価値から投入資本を差し引く:

MVA = 市場価値 − 投入資本
MVA = 500,000,000 − 300,000,000 = 200,000,000

この例では、MVAが$200,000,000となり、企業はその資本を使って市場で大きな価値を創出していることがわかる。

MVAは、市場での評価が反映されているが、
実際の社債や株式の市場の評価額を使うため、実際の貸借対照表とは直接関係ない数字である。
そのため、社内の管理や資産効率を高めるための具体的な改善活動などには使いづらい

おわりに

これ以外にも、企業の評価をするさいには、ROIなど様々な指標があるが、
今回新しくこの3つの評価方法を知ることで、よりどの時にどの評価方法を使うか?の解像度があがった。
所属している企業の投資家がどのような判断軸で投資するかを決めているのか?を知ることができて面白かった。