【事例共有】実際に起きた訴訟・摘発事例から学ぶ“社内情報共有”の落とし穴

2025/06/10

調査
著作権

資料作成やデザインなどで引用をすることは多いと思いますが、最近、スマホのキャプチャ画像や PDF の添付といった“手軽な共有”が、著作権侵害として訴訟・刑事事件に発展するケースが増加しています。情報を拡散するハードルが下がった一方で、「私的使用」の範囲を超えた瞬間に法律リスクが顕在化することが意外と知られていません。本稿では、実際に発生した事件をもとに「どこがアウトなのか」「どうすれば合法的に共有できるのか」を具体的に整理したいと思います。

事件の概要──訴訟・摘発はなぜ相次いだのか

都内コンサルティング会社の書類送検(2025年5月)

背景: 新聞・雑誌記事を daily レポート形式にまとめ、PDF 化して社内サーバーに保存。部門単位でメール配信も行い、最終的に数百名が閲覧。
結果: 新聞社から著作権侵害で告発。役員を含む3名が著作権法違反容疑で書類送検。企業側は和解金1,800万円と再発防止策の公表を余儀なくされた。

鉄道会社と大手新聞社の民事訴訟

背景: 毎朝の記事をスキャンしてイントラネットに掲示。記者の撮影写真を含むページも丸ごと転載。判決: 地裁で損害賠償2,400万円の支払い命令。「営利を目的とした組織的利用で、私的使用に該当しない」と明確に指摘された。

統計で見る摘発トレンド

文化庁の調査では、社内コピーやイントラネット転載に起因する著作権トラブルは2019年比で約4倍(2024年時点)。新聞社や出版社は AI 監視ツールを導入し、改ざんなしの画像ファイルを自動検出する体制を強化している。

著作権法のポイント──「社内だからOK」は通用しない

新聞・雑誌記事は権利者が明確かつ監視体制が厳格なため、無断利用は早期に発見され訴訟コストも高額になりやすい。

よくある誤解: 社内だけの共有は私的使用だから合法

実際の規定: 私的使用は「個人または極めて限定的な家庭内等」に限られ、業務目的・営利組織は対象外

よくある誤解: 引用なら許される

実際の規定: 引用は必然性、主従関係、出典明示が必須。全文転載や大部分抜粋は引用の要件を満たさない。

よくある誤解: インターネットに公開しなければバレない

実際の規定: 社内サーバーでもログ解析や通報で発覚。新聞社は定期的に法人内ネットワークをクローリングしている。

企業が負うリスク

民事損害賠償

著作物1件あたり数万円から数十万円が相場。大量転載の場合は“組織的侵害”として懲罰的に高額化する。

刑事罰・書類送検

営利目的の複製は10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金(法人は3億円以下)。

ブランドイメージの毀損

判決・送検のリリースが報道されると投資家・取引先からの信頼を失う。

再発防止コスト

務部門の強化、研修の追加、クリッピングサービス契約など長期的負担が発生。

合法的な情報共有の三つのステップ

ステップ1 目的の明確化

「議論の材料として冒頭3段落だけ必要」など利用範囲を最小化し、許諾費用と転載量を抑える。

ステップ2 許諾・ライセンス取得

新聞社の法人向け二次利用窓口へ申請し、またはクリッピングサービス(NIKKEI Clip、共同通信 PR Wire など)を契約する。これで合法化と検索・配信機能が得られる。

ステップ3 社内ポリシー制定

「原則 URL 共有、全文転載は許諾が前提」と明文化し、チェックフローを業務プロセスに組み込む。個人の判断差をなくし再発リスクを抑制できる。

結論、便利さとリスクのバランスを取る

手軽にコンテンツを複製できる時代だからこそ、著作権リテラシーは全社員の必須スキルです。「知らなかった」では済まされない著作権法。訴訟や送検は企業の信用を直撃します。URLを共有するか正式に許諾を得る。この小さな手間が、数千万円規模の損害と長期のブランド毀損を未然に防ぎます。社内情報共有を活性化させることと、法律を順守することは矛盾しません。正しい手順を踏み、安心して知見を広げられる環境を整えましょう。