【事例共有】実際に起きた訴訟・摘発事例から学ぶ“社内情報共有”の落とし穴

2025/06/10

調査
著作権

資料作成やデザインの現場で、新聞記事や他社のレポートを引用することは多いでしょう。しかし最近、スマホのキャプチャ画像やPDFの添付といった“手軽な共有”が、著作権侵害として訴訟や数千万円規模の賠償に発展するケースが表面化しています。

「社内だけの共有なら大丈夫」という思い込みが、企業の社会的信用を揺るがす重大なリスクにつながる時代。本稿では、実際の判例をもとに、合法的な情報共有の境界線を整理します。

1. 実際に起きた法的紛争──「社内ならOK」が否定された瞬間

社内での情報共有が著作権侵害と認定された代表的な事例を紹介します。

日本経済新聞社による法人訴訟(2022年〜23年など)

日本経済新聞社は、記事を無断でデジタル複製し社内ネットで共有していた複数の企業に対し、著作権侵害を指摘しています。

  • 背景: 記事をスキャンしてイントラネットに掲載したり、記事の切り抜き(クリッピング)をPDF化して社内メールで一斉送信したりする行為。
  • 法的見解: 新聞社側は「法人が業務として行う記事共有は、ライセンス契約が必要な商用利用である」と一貫して主張。実際に多額の和解金や、正規ライセンスへの加入を余儀なくされるケースが相次いでいます。

ティー・ピー・オー事件(知財高裁 判決)

  • 背景: デザイン会社が、新聞記事をコピーしてクライアントへのプレゼン資料に使用。
  • 判決: 「営利目的の業務において、社内や顧客への説明のために複製する行為は『私的使用』には該当しない」と断定されました。

統計に見るリスクの高まり

一般社団法人日本複製権センター(JRRC)などの報告によると、デジタル化に伴い無断複製の検知は容易になっています。SNSや通報、退職者からの情報提供により、水面下で進んでいた侵害が発覚し、企業が突然の法的対応を迫られるリスクは年々高まっています。

2. 著作権法のポイント──よくある「3つの誤解」

誤解①:社内だけの共有は「私的使用」だから合法?

【現実】 著作権法第30条の「私的使用」は、自分自身や家庭内など、ごく限られた範囲での利用に限定されます。法人が業務目的で利用する場合、たとえ社内限定であっても私的使用の範囲を超え、侵害とみなされます。

誤解②:出典を明記すれば「引用」として認められる?

【現実】 引用(第32条)が成立するには、「自分の文章が主、引用が従」という主従関係や、どうしてもその記事が必要であるという必然性が必要です。記事を丸ごとコピーして共有する行為は「転載」であり、引用には当たりません。

誤解③:ネットに公開しなければバレない?

【現実】 近年、権利者団体はAI監視ツールやクローリング技術を用いて、不自然な画像利用をチェックしています。また、コンプライアンス意識の高まりから、内部通報による発覚も増えています。

3. 企業が負う甚大なリスク

民事上の損害賠償: 過去の利用期間に遡って正規ライセンス料相当額(+遅延損害金)を請求されます。規模によっては数千万円に達することもあります。

  • 刑事罰: 著作権侵害は「10年以下の懲役」または「1,000万円以下の罰金」の対象です。さらに法人の場合は**「3億円以下の罰金」**という極めて重い罰則が定められています。
  • ブランドの失墜: コンプライアンス違反として報道されれば、取引先や投資家からの信頼を損なうことになります。

4. 合法的に情報を共有するための3ステップ

ステップ1:安易な「複製」を避け「URL」を活用する

Web記事の場合、画像やPDFでの共有ではなく、記事のURLを共有しましょう。リンクを貼る行為自体は原則として著作権侵害には当たりません(ただし、有料記事を回避するような特殊な手法は避けてください)。

ステップ2:正規ライセンスの取得・クリッピングサービスの利用

新聞や雑誌の記事を組織的に共有したい場合は、以下の窓口を通じて正当な権利を得るのが鉄則です。

  • 日本複製権センター(JRRC)(社内コピーなどの一括許諾):各新聞社の法人向け二次利用窓口
  • 日経テレコン、共同通信PR Wireなどの正規配信サービス

ステップ3:社内ルールの策定と周知

「記事のスクショをチャットに貼らない」「PDF化して保存しない」といった具体的なルールを策定し、社員研修などで周知徹底しましょう。

結論:コンプライアンスが組織を守る

「知らなかった」では済まされないのが著作権法です。URLを共有するか、正当な対価を払ってライセンスを得る。この小さな手間を惜しまないことが、数千万円の損害とブランド毀損を未然に防ぐ唯一の方法です。

正しい手順を踏み、安心して知見を広げられる環境を整えていきましょう。